M&Aのマッチングプラットフォームにおいて、売り手のアドバイザーをしていると感じる事があります。
私は会計事務所に12年間勤務し、独立してからも多数の会計事務所の先生方や会計担当者と接してきました。その中で痛感しているのは、「会計事務所には多様性がある」という事実と、「多くの経営者はその違いを知らないまま顧問契約を結んでいる」という現実です。
「顧問税理士とはなんぞや?」を理解しないまま、惰性で契約を続けてしまっている経営者は少なくありません。実はそれが、会社の経営スピードや判断力を大きく鈍らせているケースが非常に多いのです。
ここで、よくある代表的なリスクを3つほど紹介させて頂きます。
「毎月の顧問料を払っているのに、試算表は年に数回しか届かない」
こんな話を経営者からよく聞きます。経営判断に必要な数字がリアルタイムで見られないまま、経営を続けるのはまさにブラインド飛行。
決算の時期になって「もっと早く知っていれば…」と後悔しても、過去の数字は戻せません。数字の鮮度が悪い=経営の意思決定が遅れることを意味します。
別のケースでは、顧問税理士が高齢のためクラウド会計ソフトを導入できない、という理由で事業会社側に負担がかかっている例もあります。
- 領収書や請求書は紙で提出
- 会計データはUSBや紙で受け渡し
- 仕訳はすべて手入力
本来、クラウドを導入すれば事務負担は大幅に減り、リアルタイムで数字を共有できるはずです。しかし「税理士先生が使えない」という理由だけで、その非効率を事業会社側が負担してしまっているケースが少なくないのです。
顧問税理士との契約内容は事務所によって大きく異なります。
- 記帳代行まで含む事務所
- 試算表作成と簡単な説明のみの事務所
- 資金繰り支援や経営会議に同席する事務所
同じ月額5万円でも、A事務所とB事務所では提供内容がまったく違うのです。
違いを理解しないまま契約してしまうと、「顧問税理士なのに◯◯してくれない!」という不満が生まれるか、逆に「そんなものか」と思い込み、改善の芽を摘んでしまうことになります。
会計事務所を大きく分類すると、次の3タイプに分けられます。
決算の税務申告のみに特化。決算書(確定申告書)はまとめるが、経営の相談や提案は少ない。
決算書の作成に加え毎月試算表を作成し、簡単な説明を行う。だが深い経営アドバイスは少ない。
月次試算表の作成や決算時の決算書作成に加え、経営会議や事業計画に同席し、改善提案まで行う。まさに「社外CFO」のような存在。
どのタイプが正解というわけではありません。大事なのは、自社の成長フェーズや課題に合った事務所を選べているか、ということです。
経営者にとって、顧問税理士は「昔からの付き合いだから」と変えにくい存在です。しかし、それは大きなリスクになります。
顧問税理士は「数字の入口」を握る存在。入口が遅い、古い、狭い状態であれば、出口である経営判断も必ず遅く、古く、狭くなります。
数年ごとに比較・見直しを行わない経営者は、知らず知らずのうちに数字の鮮度と精度を犠牲にしているのです。
顧問税理士は単に決算書を作る人ではありません。理想は「経営判断に必要な数字を、タイムリーかつ正確に提示する存在」であることです。
もしその理解がないまま任せてしまうと、次のような事態を招きます。
- 必要な時に必要な数字が出てこない
- 改善提案が一切ない
- アナログ対応のコストを事業会社が負担している
つまり、顧問税理士の選び方次第で、会社の経営リスクは大きく変わるのです。
満足していても「他の事務所と比較」することは経営者の義務です。比較しなければ、自分が遅れていることに一生気付けません。
- 翌月初めには試算表を出す事務所
- クラウドでリアルタイム共有できる事務所
- 経営会議に参加して改善提案をする事務所
そうした選択肢を知るだけで、自社の環境を見直すきっかけになります。
「昔から」という安心感は大切ですが、「今の自社に最適か」という視点を忘れてはいけません。顧問税理士を見直すことは、決して裏切りではなく、経営者としての責任です。
数字の入口を誰に握らせるかで、会社の未来は大きく変わります。
「昔からの付き合い」は信頼の証であっても、「今も最適である保証」にはなりません。
経営者に必要なのは、惰性を断ち切り、最適なパートナーを選ぶ勇気です。
顧問税理士を見直すことは、経営を加速させる第一歩になります。
会社の現在の状況、未来の理想像、これらを加味した上で、自社に最適な税理士事務所を探してみることをお勧めします。
自力で解決できない場合や、どこから手をつけて良いかわからない場合は、ぜひ一度ご相談ください。弊社は代表自身が会計事務所での長年の勤務経験を持ち、現在も多様な会計事務所様との連携を通じて、実務に即したご支援を行っています。
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