赤字の会社ばかり買収するオーナーその理由を聞いてみた
赤字会社=価値ゼロじゃない。詐欺もある今だからこそ本質を見極めよ
「え?なんでそんな赤字の会社ばっかり買うの?」
買収を繰り返すオーナーに対して、周囲はいつも不思議そうに尋ねる。
彼の答えは、いつもこうだ。
「だって、儲かるからだよ。」
ーー赤字の会社を買って儲かる?
M&Aの現場で数多くの案件を見てきた私にとっても、この発言は最初こそ疑問だった。
けれど、彼の話をじっくり聞いていくうちに、その裏には数字の奥にある真実が隠れていることに気づかされた。
「赤字=悪」は表層的な思い込みにすぎない
会話の続きを紹介しよう。
私:「正直、利益が出てる会社の方が良くないですか? 銀行からも評価されやすいし…」
オーナー:「それは表面しか見てない人の発想。むしろ利益が出てる会社って、税金も高いし、譲受しても大きな改善の余地が少ないんだよね。」
私:「え?でも赤字だと資金繰り大変だし、従業員のモチベーションも低いのでは?」
オーナー:「いや、それもケースバイケース。むしろ、なぜ赤字かを見れば、本当にいい案件が隠れてる。」
たしかに、M&Aの評価ではPL(損益計算書)だけを見て「赤字=ダメ」と判断しがちだ。
でも実際には、赤字の理由によって買うべき会社か避けるべき会社かは大きく異なる。
買ってもいい赤字会社 VS 買ってはいけない赤字会社
オーナーは、こんな見分け方をしている。
【買ってもいい赤字会社】
- 一時的な先行投資による赤字(新事業や人材採用など)
- 法人税を抑えるための節税設計
- 減価償却費で赤字に見えてるだけで、営業キャッシュフローは黒字
- 代表者個人に利益を流しているため法人が赤字(いわゆるオーナー企業型)
- 金融機関との関係が良好で、信用が落ちていない
【買ってはいけない赤字会社】
- 売上が減少トレンドで回復の兆しがない
- キャッシュが枯渇していてリスケ中、支払遅延も発生
- 人材離脱が加速し、残された社員の士気も低い
- 財務諸表の開示や根拠資料があいまい(隠し事が多い)
- 「将来は黒字になる」とは言うものの、根拠ある施策が伴っていない
オーナーいわく、
「利益が出てるからといって、伸びしろのない会社を買っても面白くない。赤字でも、改善すれば伸びしろがある会社の方が利益になる」
ということらしい。
「戦略的な赤字」という発想を持とう
たとえば、以下のような会社があったとする。
年間利益:マイナス800万円
減価償却費:1,200万円
現預金残高:6,000万円
銀行との関係:問題なし(追加融資も検討中)
この会社、表面上は赤字だが、営業キャッシュフローはプラス。しかも、先代社長が税理士のアドバイスで利益を圧縮し、税金をほとんど払っていなかった。赤字というより「課税されないようにコントロールされた黒字」とも言える。このような会社は、経営の透明性さえあれば極めてお買い得なのだ。
ただし注意!赤字会社を狙ったM&A詐欺も増加中
一方で、最近では「赤字会社を狙って、資金を抜き取るM&A詐欺」も報道されている。
NHKの報道(2024年9月30日)によると、
ある買い手が赤字の都内企業(預金残高 数千万円)をM&Aで買収。譲渡後、買い手が預金をすべて引き出し、そのまま雲隠れ。
売り手の社長や従業員は「会社を残すために譲渡したのに」と呆然。結局、買収後わずか数週間で会社は資金ショートし、廃業状態に。
この事件から分かるのは、
「赤字でもキャッシュを持っている会社」=現金抜き取り型詐欺のターゲットにされやすいということ。
買う側も注意が必要だが、売る側も「誰に売るか」を真剣に見極める必要がある時代だ。
赤字会社を買収する際のチェックリスト
オーナーに教えてもらった「赤字会社を見るときのポイント」をまとめておく。
【赤字企業買収・5つのチェックリスト】
- 営業キャッシュフローはプラスか?(利益より現金)
- 赤字の理由は明確か?(節税か、投資か、慢性的悪化か)
- 現預金・資産構成はどうか?(隠し債務や粉飾がないか)
- 経営者依存が強すぎないか?(キーマン退任で崩れないか?)
- クロージング後の預金管理・ガバナンスは大丈夫か?(詐欺防止策)
- 契約で「クロージング後の資金用途制限」や「取引監視」を設ける
- デューデリジェンス(財務・法務・税務)をプロに任せて抜けを防ぐ
- 売主側にも一定期間の経営関与を求めて、不測の資金移動を防止する
【まとめ】「赤字=チャンス」だが、見極めと対策は必須
赤字企業ばかり買収するオーナーの言葉は、極めてシンプルだった。
「だって、儲かるからだよ。」
しかし、その裏には緻密な分析と冷静なリスク判断があった。赤字企業=買うべき or 買わないべき、の答えは中身次第だ。
そして今、M&A詐欺のリスクも現実にある中で、買い手も売り手も「数字の裏側を見る目」と「契約で守る備え」がますます求められている。
赤字でも価値ある会社は、たしかにある。
でも、安易に「儲かるらしい」と飛びついてはならない。
数字と対話し、背景を読み、仕組みを見る。
それができる買い手こそ、本当に価値のあるM&Aをしているのだ。
