
「M&A」と聞くと、どんな規模の案件をイメージしますでしょうか?
一見、ソフトバンクやYahoo、ZOZOなどの大きい会社にしか関係のないものだと思っている方が多いです。しかし実際は、あなたの街のあの会社が、あのお店が、といった具合に非常に身近なものとなっております。
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「え?なんでそんな赤字の会社ばっかり買うの?」
買収を繰り返すオーナーに対して、周囲はいつも不思議そうに尋ねる。
彼の答えは、いつもこうだ。
「だって、儲かるからだよ。」
ーー赤字の会社を買って儲かる?
M&Aの現場で数多くの案件を見てきた私にとっても、この発言は最初こそ疑問だった。
けれど、彼の話をじっくり聞いていくうちに、その裏には数字の奥にある真実が隠れていることに気づかされた。
会話の続きを紹介しよう。
私:「正直、利益が出てる会社の方が良くないですか? 銀行からも評価されやすいし…」
オーナー:「それは表面しか見てない人の発想。むしろ利益が出てる会社って、税金も高いし、譲受しても大きな改善の余地が少ないんだよね。」
私:「え?でも赤字だと資金繰り大変だし、従業員のモチベーションも低いのでは?」
オーナー:「いや、それもケースバイケース。むしろ、なぜ赤字かを見れば、本当にいい案件が隠れてる。」
たしかに、M&Aの評価ではPL(損益計算書)だけを見て「赤字=ダメ」と判断しがちだ。
でも実際には、赤字の理由によって買うべき会社か避けるべき会社かは大きく異なる。
オーナーは、こんな見分け方をしている。
オーナーいわく、
「利益が出てるからといって、伸びしろのない会社を買っても面白くない。赤字でも、改善すれば伸びしろがある会社の方が利益になる」
ということらしい。
たとえば、以下のような会社があったとする。
年間利益:マイナス800万円
減価償却費:1,200万円
現預金残高:6,000万円
銀行との関係:問題なし(追加融資も検討中)
この会社、表面上は赤字だが、営業キャッシュフローはプラス。しかも、先代社長が税理士のアドバイスで利益を圧縮し、税金をほとんど払っていなかった。赤字というより「課税されないようにコントロールされた黒字」とも言える。このような会社は、経営の透明性さえあれば極めてお買い得なのだ。
一方で、最近では「赤字会社を狙って、資金を抜き取るM&A詐欺」も報道されている。
NHKの報道(2024年9月30日)によると、
ある買い手が赤字の都内企業(預金残高 数千万円)をM&Aで買収。譲渡後、買い手が預金をすべて引き出し、そのまま雲隠れ。
売り手の社長や従業員は「会社を残すために譲渡したのに」と呆然。結局、買収後わずか数週間で会社は資金ショートし、廃業状態に。
この事件から分かるのは、
「赤字でもキャッシュを持っている会社」=現金抜き取り型詐欺のターゲットにされやすいということ。
買う側も注意が必要だが、売る側も「誰に売るか」を真剣に見極める必要がある時代だ。
オーナーに教えてもらった「赤字会社を見るときのポイント」をまとめておく。
赤字企業ばかり買収するオーナーの言葉は、極めてシンプルだった。
「だって、儲かるからだよ。」
しかし、その裏には緻密な分析と冷静なリスク判断があった。赤字企業=買うべき or 買わないべき、の答えは中身次第だ。
そして今、M&A詐欺のリスクも現実にある中で、買い手も売り手も「数字の裏側を見る目」と「契約で守る備え」がますます求められている。
赤字でも価値ある会社は、たしかにある。
でも、安易に「儲かるらしい」と飛びついてはならない。
数字と対話し、背景を読み、仕組みを見る。
それができる買い手こそ、本当に儲かるM&Aをしているのだ。